2019年11月25日に『脳卒中治療ガイドライン2015 [追補2019対応]』(以下、[追補2019])が発行されました。
[追補2019]では、2016年、2017年の文献を検索し、レベル1のエビデンスを追補、またレベル3以下だったエビデンスレベルが2となり、特に重要と考えられるものも追補することを原則として作成されました。
Ⅰ~Ⅶの項のうち6項目に推奨文の変更・エビデンスの追加があり、特にⅡ脳梗塞・TIAに多くの変更・追加があります。

本コンテンツ(パート1)では、[追補2019]中「推奨」に変更のあった項目について、『Ⅰ 脳卒中一般』及び『Ⅱ 脳梗塞・TIA』の項の「推奨」部分のみを抜粋した内容をご紹介します。
※ガイドライン詳細に関しては『脳卒中治療ガイドライン2015 [追補2019対応]』をご参照ください

追記箇所:緑文字   変更箇所:オレンジ文字

I 脳卒中一般

1 管理

1-3 対症療法

(2)嚥下障害

推奨

  1. 入院後24時間以内に嚥下に対するアセスメントおよび適切な対処を行うことが望ましいが、十分な科学的根拠はない(グレードC1)
  2. 患者が飲食や経口的服薬を開始する前に嚥下評価することが推奨される。ベッドサイドでの簡便なスクリーニング検査として、水飲みテストが有用であるが、さらに精密な検査が必要な場合には嚥下造影検査(VF検査)や内視鏡検査(FE検査)を実施するよう勧められる(グレードB)
  3. 検査の結果、誤嚥リスクが高いと判断されれば、嚥下機能回復のためのリハビリテーションを実施する一方で、経鼻胃管(NGチューブ)や経皮内視鏡的胃瘻造設術(PEG)チューブによる栄養補給をするよう勧められる(グレードB)
  4. 脳卒中後嚥下障害を有する患者に対する、誤嚥性肺炎の予防を目的とした抗菌薬投与は十分な科学的根拠がないので、勧められない(グレードC2)

3 発症予防

3-1 危険因子の管理

(1)高血圧

推奨

  1. 診察室での血圧が140/90mmHg以上を高血圧とし、非薬物療法および降圧薬投与を開始するよう強く勧められる(グレードA)
  2. 診察室での血圧が130/80mmHg以上で140/90mmHg未満の場合、高リスク群*では非薬物療法および降圧薬投与を開始し130/80mmHg未満を降圧目標とするよう強く勧められる(グレードA)。低リスク群では非薬物療法を開始し定期観察を行うよう強く勧められる(グレードA)
  3. 降圧薬の選択としては、カルシウム拮抗薬、利尿薬、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)などが強く勧められる(グレードA)。特に、糖尿病、慢性腎臓病、および発作性心房細動や心不全合併症例、左室肥大や左房拡大が明らかな症例などでは、ACE阻害薬、ARBが勧められる(グレードB)。血圧変動性の点からはカルシウム拮抗薬が勧められる(グレードB)

*高リスク群:「脳心血管病既往、抗血栓薬服用中、糖尿病、蛋白尿のあるCKD」のいずれか1つ、または「年齢(65歳以上)、男性、脂質異常症、喫煙」のうちの3つ以上がある場合など。ただし75歳以上の高齢者、両側頚動脈狭窄や脳主幹動脈閉塞がある、または未評価の脳血管障害の場合を除く。

(3)脂質異常症

推奨

脂質異常症患者にはLDL-コレステロールをターゲットとした、HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)の投与が強く勧められる(グレードA)。スタチンの効果が不十分な場合、エゼチミブやproprotein convertase subtilisin-kexin type 9 (PCSK9) 阻害薬の併用が勧められる(グレードB)

II 脳梗塞・TIA

1 脳梗塞急性期

1-3 血栓溶解療法

推奨

  1. 遺伝子組み換え組織プラスミノゲン・アクティベータ(rt-PA、アルテプラーゼ)の静脈内投与は、発症から4.5時間以内に治療可能な虚血性脳血管障害で慎重に適応判断された患者に対して強く勧められる(グレードA)。わが国ではアルテプラーゼ0.6mg/kgの静注療法が保険適用されており、治療決定のための除外項目、慎重投与項目が「静注血栓溶解(rt-PA)療法 適正治療指針 第三版(2019年3月)」に定められている。また、日本脳卒中学会によりrt-PA静注療法実施施設要件が提案、推奨されている。
  2. 発症後4.5時間以内であっても、治療開始が早いほど良好な転帰が期待できる。このため、患者が来院した後、少しでも早く(遅くとも1時間以内に)アルテプラーゼ静注療法を始めることが強く勧められる(グレードA)
  3. 発症時刻が不明な時、頭部MRI拡散強調画像の虚血性変化がFLAIR画像で明瞭でない場合には発症4.5時間以内の可能性が高い。このような症例にアルテプラーゼ静注療法を行うことを考慮しても良い(グレードC1)
  4. 前方循環の主幹脳動脈(内頚動脈または中大脳動脈M1部)閉塞と診断され、画像診断などに基づく治療適応判定がなされた急性期脳梗塞に対し、アルテプラーゼ静注療法を含む内科治療に追加して、発症6時間以内にステントリトリーバー(グレードA)または血栓吸引カテーテル(グレードB)血管内治療(機械的血栓回収療法)を開始することが勧められる。
  5. 現時点において、アルテプラーゼ以外のrt-PA製剤、たとえばモンテプラーゼ(保険適用、虚血性脳血管障害は対象外)やtenecteplase(本邦未承認)の静脈内投与は、わが国において十分な科学的根拠がないので、勧められない(グレードC2)

1-4 急性期抗血小板療法

推奨

  1. アスピリン160~300mg/日の経口投与は、発症早期(48時間以内に開始)の脳梗塞患者の治療法として強く勧められる(グレードA)
  2. 抗血小板薬2剤併用(主にアスピリンとクロピドグレル)は、発症早期の心原性脳塞栓症を除く軽症脳梗塞もしくは一過性脳虚血発作(TIA)患者の、亜急性期までの治療法として勧められる(グレードB)
  3. オザグレルナトリウム160mg/日の点滴投与は、急性期(発症5日以内に開始)の脳血栓症(心原性脳塞栓症を除く脳梗塞)患者の治療法として勧められるが、他の抗血栓療法との併用下における有効性や安全性は不明である(グレードB)

1-8 脳動脈:血管内再開通療法(機械的血栓回収療法、局所線溶療法、その他)

推奨

  1. 前方循環系の主幹脳動脈(内頚動脈または中大脳動脈M1部)閉塞と診断され、画像診断などに基づく治療適応判定がなされた急性期脳梗塞に対し、遺伝子組み換え組織プラスミノゲン・アクティベータ(rt-PA、アルテプラーゼ)静注療法を含む内科治療に追加して、発症6時間以内にステントリトリーバー(グレードA)または血栓吸引カテーテル(グレードB)を用いた血管内治療(機械的血栓回収療法)を開始することが勧められる。わが国では、保険適用された脳血栓回収用機器を使用し、「経皮経管的脳血栓回収用機器 適正使用指針 第3版」に従って、定められた実施医療機関において、適切な症例選択と手技によって行わねばならない。
  2. 発症後6時間以内であっても、治療開始および再開通までの時間が早いほど良好な転帰が期待できる。このため、患者が来院した後、少しでも早く血管内治療(機械的血栓回収療法)を行うことが勧められる(グレードA)
  3. 最終健常確認時刻から6時間を超えた内頚動脈または中大脳動脈M1部の急性閉塞が原因と考えられる脳梗塞では、神経徴候と画像診断に基づく治療適応判定を行い、最終健常確認時刻から16時間以内(グレードA)あるいは24時間以内(グレードB)に血管内治療(機械的血栓回収療法)を開始することが勧められる。わが国では、「経皮経管的脳血栓回収用機器 適正使用指針 第3版」に従って、症例ごとに適応を慎重に検討する必要がある。
  4. 神経脱落症候を有する中大脳動脈塞栓性閉塞においては、来院時の症候が中等症以下で、CT上梗塞巣を認めないか軽微な梗塞にとどまり、発症から6時間以内に治療開始が可能な症例に対しては、経動脈的な選択的局所血栓溶解療法が勧められる(グレードB)。ただし、発症後4.5時間以内に薬剤投与が可能な患者に対しては、アルテプラーゼ静注療法が第一選択となっていることに留意する。
  5. アルテプラーゼ静注療法が非適応の場合も、上記1~3の推奨に従って血栓回収用機器による血管内治療(機械的血栓回収療法)を行うことを考慮しても良い(グレードC1)

2 TIAの急性期治療と再発予防

推奨

  1. 一過性脳虚血発作(TIA)と診断すれば、可及的速やかに発症機序を評価し、脳梗塞発症予防のための治療を直ちに開始するよう強く勧められる(グレードA)。TIA後の脳梗塞発症の危険度予測と治療方針の決定には、ABCD2スコアをはじめとした予測スコアの使用が勧められる(グレードB)。脳画像上の多発性虚血病変、主幹脳動脈病変合併例、ABCD2スコア6~7点は1年以内の脳卒中再発リスクが高い(グレードB)
  2. TIAの急性期(発症48時間以内)の再発防止には、アスピリン160~300mg/日の投与が強く勧められる(グレードA)。ABCD2スコア4点以上の高リスクTIA例では,急性期に限定した抗血小板薬2剤併用療法(アスピリン+クロピドグレル)が勧められる(グレードB)
  3. 急性期以後のTIAに対する治療は、脳梗塞の再発予防に準じて行う。

3 脳梗塞慢性期

3-1 脳梗塞再発予防ほか(抗血小板療法、無症候性脳梗塞は除く)

(1)高血圧症

推奨

  1. 脳梗塞の再発予防には、降圧療法が強く勧められる(グレードA)
  2. 両側内頚動脈高度狭窄や主幹動脈閉塞がある例、または血管未評価例では、血圧は140/90mmHg未満を目指すことを考慮しても良い(グレードC1)
  3. 両側内頚動脈高度狭窄がない、主幹動脈閉塞がない、ラクナ梗塞、抗血栓薬内服中では、可能であればより低い血圧レベルが推奨され、血圧は130/80mmHg未満を目指すことを考慮しても良い(グレードC1)

3-8 頚動脈内膜剥離術(carotid endarterectomy: CEA)

推奨

  1. 症候性頚動脈高度狭窄(70~99%狭窄、NASCET法)では、抗血小板療法を含む最良の内科的治療に加えて、手術および周術期管理に熟達した術者と施設において頚動脈内膜剥離術を行うことが強く勧められる(グレードA)。ただし狭窄末梢が虚脱した高度狭窄(near occlusion)には、頚動脈内膜剥離術を行うことを考慮しても良いが、十分な科学的根拠はない(グレードC1)。
  2. 症候性頚動脈中等度狭窄では、抗血小板療法を含む最良の内科的治療に加えて、手術および周術期管理に熟達した術者と施設において頚動脈内膜剥離術を行うことが勧められる(グレードB)
  3. 無症候性頚動脈高度狭窄では、抗血小板療法、降圧療法、脂質低下療法を含む最良の内科的治療による効果を十分検討した上で、これに加えて、手術および周術期管理に熟達した術者と施設において頚動脈内膜剥離術を考慮することが勧められる(グレードB)
  4. 内頚動脈狭窄症において、血行再建術を考慮すべき高齢者、特に著しい屈曲や石灰化を伴うなど動脈の状態が血管内手術に好ましくない症例においては、頚動脈ステント留置術よりも頚動脈内膜剥離術を行うことが勧められる(グレードB)
  5. 症候性頚動脈軽度狭窄あるいは無症候性中等度ないし軽度狭窄において、頚動脈プラークの不安定化や潰瘍形成が認められる場合は、頚動脈内膜剥離術を行うことを考慮しても良い(グレードC1)

脳卒中のRecommendation gradeに関する分類(2015)

推奨のグレード
Grades of recommendations
内容
Type of recommendations
A 行うように強く勧められる
(1つ以上のレベル1の結果)
B 行うように勧められる
(1つ以上のレベル2の結果)
C1 行うことを考慮しても良いが、十分な科学的根拠がない
C2 科学的根拠がないので、勧められない
D 行わないように勧められる

※なお、エビデンスのレベル、推奨のグレード決定にあたって人種差、民族差の存在は考慮していない

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