非臨床試験に関する事項

作用機序

アピキサバンは外因性及び内因性血液凝固経路の収束点であるFⅩaを阻害し、トロンビン産生を抑制することで直接的な抗血液凝固作用及び間接的な抗血小板作用を示し、抗血栓作用を発揮する。

1. FⅩa阻害作用( in vitro 酵素学的検討及び選択性)39)

アピキサバンは、ヒトFⅩaの活性部位に対する強力かつ直接的な阻害作用を示し、Ki値は0.08nmol/Lであった。また、FⅩaに対する高い選択性を有することが示された。アピキサバンのFⅩa阻害作用は、急速に発現し、可逆的であった。

方法

阻害薬の存在下または非存在下で、合成基質を含有する緩衝液に酵素を添加することで反応を開始させた。合成基質の分解に伴う吸光度または蛍光光度の変化から酵素活性を測定し、複数濃度のアピキサバンによるヒトFⅩa及び各種ヒトプロテアーゼの阻害活性を観察し、Ki値を算出した。また、急速混合ストップドフロー法を用い、反応速度を経時的に検討し、アピキサバンの結合速度定数を算出した。さらに、予め調製したFⅩaとアピキサバンの複合体を基質中で100倍希釈することで解離速度定数を求めた。

薬効薬理

1.血液凝固系に対する作用

トロンビン産生抑制作用( in vitro ) 40)

アピキサバンは、ヒト乏血小板血漿における組織因子誘発性トロンビン産生を濃度依存的に抑制し、50%阻害濃度(IC50)は50 ~ 100nmol/Lであった。

抗凝固作用( in vitro ) 42)

プロトロンビン時間国際標準比(PT-INR)、活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)及びHEPTEST®試験の凝固時間が2倍に延長する血漿中アピキサバン濃度は、それぞれ1.9、7.6及び0.19μmol/Lであった。一方、20μmol/Lまでの血漿中アピキサバン濃度では、トロンビン時間の延長は認められなかった。

方法

健康被験者から得た血漿にアピキサバンを加え、プロトロンビン時間、aPTT及びHEPTEST®試験の凝固時間を、それぞれの分析キットを用いて測定した。得られたプロトロンビン時間より国際標準比を算出した。また、プールしたヒト血漿にアピキサバンを加え、トロンビン時間を測定した。

2.血小板凝集に対する作用

血小板凝集試験( in vitro ) 43)

アピキサバンは、トロンビン産生抑制作用により、組織因子誘発ヒト血小板凝集を濃度依存的に抑制し、IC50は3.5nmol/Lであった。一方、直接的な凝集惹起剤であるアデノシン二リン酸、α-トロンビン、トロンビン受容体活性化ペプチド(SFLLRN-NH2)及びコラーゲンによる血小板凝集に対して、アピキサバンの作用は認められなかった。

方法

ヒト多血小板血漿に、アピキサバンの存在下または非存在下に組織因子を添加して、外因性凝固経路から生成されるトロンビンによる血小板凝集を測定した。また、ヒトの多血小板血漿を用い、アピキサバンの存在下または非存在下にアデノシン二リン酸、α-トロンビン、SFLLRN-NH2及びコラーゲンを添加して、これらにより惹起される血小板凝集に対する影響を検討した。

3.血栓モデル及び止血モデルに対する作用

糖尿病/肥満(db / db )マウスにおける血栓バイオマーカーの発現に対する作用 44)

アピキサバンを1日2回に分けて投与することにより、1日1回の投与と比べより効果的に、db / db マウスにおけるトロンビン-アンチトロンビンⅢ複合体(T-AT)及び可溶性CD40リガンド(sCD40L)の血漿中濃度を低下させ、野生型C57BL/6マウスと同等レベルまで正常化させた。

方法

試験開始時の血漿中グルコース濃度が250±50mg/dLの範囲にある雄性db / db マウスを用いた。アピキサバンの5、50mg/kgの用量を1日2回、または10、100mg/kgの用量を1日1回、対照群には溶媒をいずれも3日間経口投与した後、採血を行い、酵素免疫測定法により血漿中T-AT及びsCD40L濃度を測定した。また、比較のため正常マウスとして野生型C57BL/6マウスのデータも取得した。

ラット血栓モデルにおける作用 45)

各種のラット血栓モデルにおいて、アピキサバンは止血能を保持した用量で用量依存的な抗血栓作用を示し、血栓重量を50%抑制する血漿中濃度(IC50)は、1.84 ~ 7.57μmol/Lであった。

※1 平均値±SEM、※2 平均値(95%信頼区間)、*p<0.05[溶媒対照群との比較(ANOVA後Dunnettの検定)]、n=5 ~ 13

ID50:血栓を50%抑制するアピキサバンの用量、IC50:血栓を50%抑制するアピキサバンの血漿中濃度
ANOVA:分散分析(analysis of variance)

方法

麻酔下の雄性SDラット(12週齢、290 ~ 460g)を用いた。溶媒またはアピキサバンを以下に示す血栓誘発または出血処置の1時間前から静脈内持続投与した。抗血栓作用については、以下のモデルにおいて評価した。動静脈シャント血栓モデルでは、5cmの絹糸を含むシャントを頚動脈及び頚静脈間に作成し、15分間血液灌流後に絹糸に付着した血栓の重量を測定した。組織因子誘発うっ滞性静脈血栓では、大静脈を露出し左腎静脈直下を結紮後、大腿静脈よりトロンボプラスチン-C試薬を投与した。その10分後に大腿静脈分枝直上を結紮し、大静脈内の血栓を摘出して重量を測定した。塩化鉄誘発大静脈及び頚動脈血栓モデルでは、腹部大静脈及び右頚動脈に塩化鉄溶液を2×5mmのろ紙で適用し、60分後に血栓を摘出し重量を測定した。

ラット出血モデルにおける作用45)

表皮(爪上皮)、腎皮質及び腸間膜のラット出血モデルにおいて、アピキサバン3mg/kg/時では溶媒対照の1.9 ~ 3.0倍に出血時間が延長した。1mg/kg/時では腸間膜出血時間の延長を示したが、表皮出血時間及び腎皮質出血時間の延長は認められなかった。0.1及び0.3mg/kg/時では、いずれのモデルにおいても出血時間の延長は認められなかった。

溶媒対照との比(平均値±SEM)、n=5 ~ 14

*p<0.05[溶媒対照群との比較(ANOVA後Dunnettの検定)]

方法

表皮出血モデルでは、後肢の爪上皮先端を切断し、その直後から止血までの時間を測定した。腎皮質出血モデルでは、開腹、腎被膜除去により左右の腎皮質を露出し、テンプレートデバイスにて切創を作製後、止血までの時間を測定した。腸間膜出血モデルでは、開腹後、腸間膜動脈から垂直に分枝し空腸表面を走行する動脈を針で穿刺後、止血までの時間を測定した。

ウサギ血栓モデルにおける作用46)

アピキサバンは止血能を維持した用量で抗血栓作用を示した。

動静脈シャント血栓モデル

アピキサバンは用量及び血漿中濃度依存的に血栓形成を抑制し、ID50値は0.27mg/kg/時、IC50値は0.357μmol/Lであった。

電気刺激頚動脈血栓モデル

アピキサバンは用量依存的に頚動脈の開存時間を延長した。0.03mg/kg/時以上の用量では90分間で閉塞はみられず、最高用量の1mg/kg/時では血栓形成を67%抑制した。90分間の平均血流量に基づくアピキサバンの抗血栓作用のID50値は0.07mg/kg/時、IC50値は0.106μmol/Lであった。

また、アピキサバンの0.3mg/kg/時以上の用量でaPTTの軽度延長及びPTの中等度の延長が認められた。なお、全用量群の血漿において、用量依存的なFⅩa活性の阻害が認められたが、トロンビン活性に影響は認められなかった。

絹糸誘発大静脈血栓モデル

アピキサバンは用量及び血漿中濃度依存的に血栓形成を抑制し、ID50値は0.11mg/kg/時であった。一方、血栓の治療効果の検討では、用量依存的に血栓重量の増加を抑制し、IC50値は0.105μmol/Lであった。

ウサギ出血モデルにおける作用46)

ウサギ表皮出血モデルにおいて、アピキサバン3mg/kg/時を静脈内持続投与したとき、出血時間は228±14秒であり、溶媒対照群(172±2秒)と比較して有意(p<0.05)な延長*が認められた。抗血栓用量である1mg/kg/時の投与時における出血時間は191±8秒であり、溶媒対照群と有意な差*は認められなかった。

方法

雄性NZWウサギを用い、後肢の爪上皮の先端を切断し、出血処置の1時間前からアピキサバン(0.1 ~ 3mg/kg/時)を静脈内持続投与し、止血するまでの時間を測定した(各群6例)。

*:Student-Newman-Keuls検定

ウサギ血栓/出血モデル47)

ウサギ絹糸誘発大静脈血栓モデルにおける、アピキサバンの血栓形成抑制のID50値は0.11mg/kg/時、IC50値は0.065μmol/Lであったのに対して、ウサギ表皮出血モデルにおけるIC50値は>1.146μmol/Lであった。

イヌ血栓モデルにおける作用48)

動静脈シャント血栓モデルにおける血栓重量に対するアピキサバンのIC50値は3.3μmol/L、電気刺激大腿動脈血栓モデルにおいて開存時間を2倍にする濃度は1.2μmol/Lであった。
また、これら両モデルで抗血栓作用が認められた血漿中アピキサバン濃度において、凝固及び出血時間の延長は軽度であった。

平均値±SEM、n=6 ~ 14*p<0.05溶媒対照群との比較(ANOVA後Duncanの有意差検定) 血漿中アピキサバン濃度は静脈内維持投与開始後60分の値を示し、PT、aPTT及び出血時間は静脈内維持投与開始後60分の投与前値比を示す。
a 負荷投与量+維持投与

方法

麻酔下の雌雄雑犬(7 ~ 14 ヵ月齢、8 ~ 15kg)を用いた。抗血栓作用は2つのモデルにおいて評価した。動静脈シャント血栓モデルでは、頚動脈と頚静脈の間に絹糸を含むシャントを作成し、30分間の血液灌流後の血栓重量を測定した。シャント灌流は投与前及び投与開始1時間後に行った。電気刺激大腿動脈血栓モデルでは、大腿動脈血流をドップラー血流計によりモニタリングし、血流量が50%になるよう狭窄した。さらに大腿動脈内に電極刺入して低電流刺激(100μA)を持続的に行い(投与開始1時間以上経過してから最長3時間)、電気刺激開始後120分間の総動脈血流量及び10分以上の血流停止(閉塞)が認められるまでの開存時間を測定した。投与前及び維持投与開始後60分における血液サンプルを用い、血漿中アピキサバン濃度、PT及びaPTTを測定した。また、出血時間はシンプレート法を用いて舌に切創を作製し、ろ紙に血液が付着しなくなるまでの時間を測定した。

一般薬理49~55)

毒性試験

1.単回投与毒性(マウス、ラット、イヌ、サル)(B0661019)56 ~ 59)

マウス(最高用量4,000mg/kg)56)、ラット(同4,510mg/kg)57)及びイヌ(同1,500mg/kg)58)のいずれにおいても死亡例はみられず、忍容性は良好であった。サルにおける単回投与毒性試験59)では、2匹が死亡し、1匹を状態悪化により切迫屠殺した。死因は採血部位からの重篤な出血と考えられ、採血時の不慮の大腿動脈損傷及び本薬のFⅩa阻害作用によるものと推察された。なお、サルはO -脱メチルアピキサバン硫酸抱合体の曝露量が非常に低く、毒性評価に用いる非げっ歯類として適切でないと考えられたことから毒性試験に用いる非げっ歯類としてイヌを選択した。

2.反復投与毒性(ラット、イヌ)55, 60 ~ 62)

ラット及びイヌを用いて、それぞれ最長6ヵ月間及び1年間反復経口投与した。いずれの動物種でも忍容性は良好であり、標的器官毒性及びアピキサバン投与に関連した明らかな出血は認められなかった。PT及びaPTTの延長ならびに出血時間の延長が認められたが、薬理作用に基づく変化と考えられ、明らかな出血性病変は伴わなかったことから、毒性所見と判断しなかった。無毒性量における曝露量と臨床推奨用量におけるヒト曝露量との比(AUC)は、ラット6ヵ月間経口投与毒性試験で11倍、イヌ1年間経口投与毒性試験で44倍であった。

3.生殖発生毒性試験

1. 受胎能及び着床までの初期胚発生に関する試験(ラット) 63)

ラット雌雄親動物生殖能及び初期胚発生にアピキサバン投与による影響は認められなかった。

2.胚・胎児発生に関する試験(マウス、ラット、ウサギ) 1 ~ 4, 64)

マウス、ラット及びウサギを用いた各試験の最高用量において、アピキサバン投与による胚・胎児発生への影響及び奇形の発生は認められなかった。母動物ではアピキサバンの薬理作用によるPT延長が認められたが、胚・胎児発生には影響を及ぼさなかった。各動物種において(ウサギ経口投与試験を除く)、胎児へのアピキサバンの曝露が確認された。なお、ウサギの経口投与では十分なアピキサバンの曝露量が得られなかったため、ウサギの静脈内投与及びマウスの経口投与試験を実施した。

3.出生前及び出生後の発生ならびに母体の機能に関する試験(ラット)65)

ラットを用いた試験において、母動物毒性がみられなかった200mg/kg/日以上の用量でF1世代の雌に交尾率の低下及びそれに伴う妊娠率の低下が軽度に認められたが、施設背景値の範囲内または背景値をわずかに下回る程度であった。

4.その他の特殊毒性

  1. 遺伝毒性試験(in vitro 、ラット) 66 ~ 70)
    細菌を用いる復帰突然変異試験66)及びチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)を用いる染色体異常試験67, 68)ならびにラット小核試験69)及びラット1ヵ月間経口投与による末梢血リンパ球染色体異常試験70)の結果、いずれも陰性であった。これらの結果から、アピキサバンは遺伝毒性を有さないと結論された。
  2. がん原性試験(マウス、ラット) 71,72)
    CD-1マウス及びSDラットを用いた2年間(104週間)混餌投与試験の結果、いずれの動物種でも、投与に関連した腫瘍発生は最高用量まで認められず、アピキサバンにがん原性はないと結論した。
  3. 光毒性試験(in vitro) 73)
    Balb/c3T3マウス線維芽細胞を用いたin vitro 光毒性試験の結果、UVA照射下及び非照射下で細胞生存率の減少はみられず、アピキサバンは光毒性を有さないと考えられた。